島根県陶芸、足立美術館

地元、安来が生んだ「炎の詩人」、河井寛次郎と、稀代の料理人であり陶芸家としても知られる北大路魯山人。陶芸館では、この二巨匠の作品をそれぞれ約50点展示しています。

北大路魯山人 明治16年(1883)~ 昭和34年(1959)
京都に生まれる。若くして書や篆刻の才能を認められ、その後、料理や骨董にも興味を持ち始める。大正8年、東京に骨董店「大雅堂芸術店」を開業し、また会員制の「美食倶楽部」を併設。大正14年、美食の殿堂「星岡茶寮」を開店。料理をとりまく総合的な美を求め、料理を盛る器や花器、絵画などを制作し、独自の美的世界を築き上げた。

河井寬次郎 明治23年(1890)~ 昭和41年(1966)
島根県安来市に生まれる。東京高等工業学校窯業科を卒業後、京都市陶磁器試験場に入所し、釉薬の研究に励む。大正9年、京都市五条坂に工房「鐘溪窯」と住居を構え、東洋陶磁器の技法を駆使した作品で評価を得るが、後に柳宗悦らに影響を受け、民藝運動に参加。戦後になると、独自の造形美を追求し、自由奔放な作品を生み出した。

足立美術館は、近代日本画壇で活躍した画家たちの作品を中心に、総数1500点を所蔵しています。その中には横山大観や竹内栖鳳、上村松園といった、日本画壇を創り上げてきた巨匠として知られる画家たちの作品が多数あります。しかし、所蔵品は大観ら有名な画家ばかりではありません。かつては国内外で高い評価と人気を得ていながら、現在では忘れ去られた画家、名前は知られていなくてもある分野において活躍した画家など、知る人ぞ知る画家たちの力作、代表作も多く所蔵しています。さらに、有名な画家であっても、一般に知られている印象とは異なる珍しい作品や、展覧会で展示される機会は少ないながらも魅力的な作品もあります。

足立全康の蒐集への情熱は定評のあるところですが、中でも一番思い出深い出来事といえば、昭和54年に北沢コレクションの「紅葉(こうよう)」「雨霽る(あめはる)」「海潮四題・夏」をはじめとする大観の作品群を一括購入したことでしょう。昭和53年に名古屋の横山大観展で見た「紅葉」(六曲一双屏風)に言葉も出ないほどの感動を受け、何が何でも手に入れるのだと八方手を尽くしたところ、門外不出の「幻のコレクション」といわれた北沢コレクションの一部とわかりました。当時、管財人の手元にあり、その中には大観の作品が、「紅葉」以外に20点近くもあり、そのほとんどが展覧会出品作だったのです。さらに驚いたことには、長い間、画集から切り抜いて額に入れ毎日飽きもせず眺め続け、夢にまで見た「雨霽る」が含まれていたのです。苦労の末、2年がかりで全ての大観の話がまとまりかけたところ、購入リストから「雨霽る」と「海潮四題・夏」をはずしてくれと言われました。これは黙ってはおれないと「一目惚れの女性に2年も通い続けて枕金も決め、さあ床入りという時に、枕をかかえて逃げられるようなもんだ。そりゃあんまりじゃないですか」と管財委員会の前で一席ぶち、泣き落とすようにして最後は当館に決めてもらったといいます。

所蔵品のほとんどは、創設者・足立全康の眼によって厳選されたものです。作家や作品を選択する上で、特定の流派や傾向に偏らず、実に幅広い蒐集を行っていることが特色といえるでしょう。本格的な日本画蒐集は昭和32年頃から始まったものですが、平成2年に亡くなるまで、コレクターの執念ともいえる情熱は決して衰えることがありませんでした。

そして現在でも、足立コレクションの基本を踏まえながら内容の充実に努めており、これらの作品は、庭園の四季の変化とともにお楽しみいただけるよう、年4回の特別展を開催し、本館(大観室・大展示室・小展示室)において、常時70点前後の作品を公開しています。