浮世絵の美人画、山種美術館

日本人が古くから培ってきた美意識や文化が注目され、そこに新たな価値観が見出されてきた証といえるでしょう。一方、西洋文化が入ってきた近代以降は、洋装に身を包むダンディな男性、トップモードで着飾る女性も時代のファッションリーダーとして常に注目される存在でした。こうした各時代の特徴あるファッションは、画家たちをも魅了し、近世から現代にいたる様々な絵画作品の中に描かれていきました。日本の絵画の中の 「よそおい」もまた、時代とともに変遷し、流行を敏感に映し出しているのです。

女性像では、伊東深水が描く女優・木暮実千代の華やかな洋装、鏑木清方の艶やかな女性や上村松園の清楚な娘の和装。さらに、洋画家・安井曽太郎や林武が描く小粋な衣服―。こうした作品には、顔の表情だけでなく装身具や髪形、色の組み合わせにも、人物の個性や魅力が巧みに描き出されています。随所に表れた画家の美意識や色彩感覚を味わい、着こなしのヒントを発見しながら、絵の中のファッションを思い思いにお楽しみいただける展覧会です。

松園以外の作品では、浮世絵師たちによる美人画もご覧いただきます。世界で数枚しか現存しないとされる稀少な鈴木春信《梅の枝折り》などにみる華奢な娘の姿、すらりとした八頭身に流行の着物をまとった鳥居清長の美女たち、喜多川歌麿の艶やかで魅惑的な女性。さらに、秘蔵のコレクションを特別に拝借し初公開する、近年人気の高い月岡芳年の代表作《風俗三十二相》では、芳年ならではのウィットに富んだ女性たちの豊かな表情をお楽しみいただきます。

一方、当館の近代絵画コレクションからは、菱田春草や池田輝方による江戸風俗の女性たち、和田英作、鏑木清方、伊東深水らによる古今の和装や洋装の美人、小倉遊亀、片岡球子ら女性画家が描く凛とした女性たちなど、バラエティに富んだ美人画をご紹介いたします。江戸時代から現代にいたる、多彩な美人画をお楽しみください。

日本の山河をこよなく愛し、豊かな自然とそこに暮らす人々の姿を叙情豊かに描き出した川合玉堂(かわいぎょくどう) (1873-1957)。山種美術館では、没後60年を記念し、玉堂の画家としての足跡をたどり、その芸術を紹介する回顧展を開催いたします。詠んだ詩歌が書かれた作品をとおして、家族や親しい芸術家との交流にもスポットをあて、素顔の玉堂の魅力をお楽しみいただきます。

山種美術館の「美術を通じて社会、特に文化のために貢献したい」という理念のもと、1966(昭和41)年に、全国初の日本画専門の美術館として開館いたしました。以来、今日にいたるまで約半世紀にわたり、近代・現代日本画を中心とした収集・研究・公開・普及につとめてまいりました。

日本画は、岩絵具や和紙など自然の素材を用いる芸術です。その主題や表現においても自然の美しさや季節感などが大切にされ、自然とともに生きる中で培われてきた日本の伝統的な美意識が反映されています。山種美術館は、日本独特の自然や風土の中で、長いときをかけて磨かれてきた日本画の魅力を、年齢、性別、国籍を問わず、一人でも多くの方にお伝えしていきたいと考えています。また、日本画を未来に引き継いでいくことができるよう、様々な活動を展開してまいりたいと存じます。

21世紀に入り、グローバル化や情報化、技術革新が急激に進むなど、私たちを取り巻く社会や環境はめまぐるしく変化しています。そうした中、人々の心を豊かにする文化や芸術の重要性が見直されるとともに、その一端を担う美術館の果たすべき役割があらためて問われています。当館は、展覧会や教育普及をはじめとするあらゆる活動を通じて、日本画と日本文化の素晴らしさを伝え、人々に感動や発見、喜びや安らぎをもたらすことのできる美術館を目指してまいります。

山種美術館の「美術を通じて社会、特に文化のため大いに貢献したい」という理念を核として、受け継がれてきた精神や共通の価値観を明文化し、山種美術館の基本理念を制定いたしました。また、日本画の素晴らしさを幅広く発信していきたいと考え、従来のロゴに新たなシンボルマーク(デザイン:佐藤卓)を加えました。さらに、かつて実施していた「山種美術館賞」を、新しい時代にふさわしいかたちで再開させた「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」を実施いたしました。本アワードは、今後も継続的に開催する予定で、日本画を未来に引き継ぎ、世界に伝えていく一助になればと存じます。

「美術を愛好される方も、またこれまであまり縁のなかった方にも広く日本画の良さを味わって頂けたらというのが、実は私の願いなのであります」という言葉を残しました。当館では、この創立者の思いを継承するとともに、21世紀における日本画の普及を目指し、展覧会や教育普及活動から、インターネットを活用した情報発信まで、さまざまな取り組みを行っております。

文化や芸術は人々の心を豊かにすることができます。21世紀に入り、グローバル化が進む中、当館では、日本固有の財産である日本画の魅力を国内外に広く発信し、国際社会において少しでも意義のある活動を続けたいと考えております。これからも、親しみやすいテーマによる展覧会から地道な研究まで、多彩な活動を通じて、日本文化・学術の振興と発展につとめてまいりたいと存じます。