甲谷武、柳原義達の芸術、三重県立美術館

甲谷武(1945~  )は、三重県伊勢市の出身の現代美術作家。独学で美術を学んだ甲谷は、1970年代から主体美術展、後にモダンアート協会展(1973年~)に出品を始めます。1980年代以降は現代日本美術展等へも出品を重ねて、白いレリーフ状の作品によって注目を集めます。

甲谷のレリーフ作品は、白く塗られた木やプラスティックの板を切ってつくられます。その大きな特徴はフォルムの面白さと陰影が織りなす空間表現で、二次元と三次元を往還する造形世界は清潔で現代的な感覚にあふれています。

2000年代に入ると、白い作品に加えてカラフルな作品が登場します。フォルムと構成に対する甲谷の鋭い感覚に変化はありませんが、色を獲得することによって甲谷作品の表情はより豊かになったといえるでしょう。甲谷は、過去40年ほどの間国内外で多くの展覧会に参加して、知る人ぞ知る作家として高く評価されてきました。しかし、意外なことに三重県内でその作品が紹介される機会はわずかでした。

今回の展覧会では、抽象的なフォルムと線によって構成されたレリーフを中心に、最初期から近作までの作品を通じて甲谷武の軌跡を紹介します。理性と感性との共働から生まれた、表情豊かな造形美の世界をご鑑賞いただければ幸いです。最後に、展覧会開催にあたり全面的にご協力をいただいた甲谷武氏、助成をいただいた公益財団法人 岡田文化財団、公益財団法人三重県立美術館協力会、その他ご支援をいただいた関係各位に深くお礼申し上げます。

作家の言葉

何歳頃から美術に関心を持つようになったのですか。

中学生の頃、ボールペンで山川惣治風の創作マンガを描いていました。油絵に興味を持ったのは高校2年生の時。宇治山田高校の美術部に先輩の作品が多く残されていたからです。

「白」一色の作品を多く制作しているのはなぜですか。

平面作品に絵画としての構造を持たせることで、見る角度や光の屈折によって画面に影の動きが生じます。本来構造物の奥にあるものは前面より暗く見えるはずですが、画面を白く塗ることで光が増幅され、たとえば前面を四角く切り取った奥の面の方が明るく見えます、この光の乱反射現象を画面構成に採り入れています。

「白」ではなく赤、黒などでも実験しましたが、すべて光を吸収してしまい乱反射現象が出ませんでした。その結果、作品の意図を明確に表現できる色彩は、白以外に発見することができませんでした。

甲谷さんにとって「色彩」は、どのような意味を持っていますか。

色彩は光によって変化するものと考えています。例えばある単色を何度塗り重ねても色彩としては薄っぺらで、色本来の可能性を発揮しません。黄色の色彩の特質を最大限に生かそうとした場合、下地は赤などを塗ることで、光が表面から下地の色まで通過する際に上塗りと下地の間に屈折が生じ、より鮮明な色彩となります。伊藤若沖も、こうした手法を使っていると思います。色彩は光を計算に入れることで、本来の彩を発揮するものと認識しています。

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甲谷さんにとって「光」は、どのような意味を持っていますか。

光は色彩のすべてを含む、可能性の根源であると考えます。

純粋な平面作品ではなく、レリーフ状作品を制作しているのはなぜですか。

前の答えと重複しますが、光のあたる画面が実像とすれば、影の部分は虚の世界、光と影の幻影の中に人間のロマンがあると考えています。

「絵画」とか「立体」といったジャンル分けをどのようにお考えですか。

私には絵画とか立体という意識はありません、壁に展示する作品は、ジャンルを超えて存在します。平らな床面に展示する作品を立体と考えています。

作品に登場する様々なフォルムは、どのように発想するのですか。

150号とか130号の縮尺の枠内に作品のイメージを鉛筆で描いてゆきます。ひと筆描きのように一気に仕上げます。数枚の内から1枚を選んで、実物大のベニヤ板にフォルムを描き込み仕上げます。ひと筆描の線はほとんど修正しません。勢いを大切にしています。作品のイメージは、酒を飲んでいたりテレビを観ていたりした時にふと浮かんだ形をメモしておきます。

三重県立美術館
三重県立美術館は三重県津市にある美術館である。1982年に中部・東海地区初の本格的な美術館として開館した。2003年には柳原義達記念館が開館した。日本の近代洋画のコレクションが充実している。

美術館のあり方の特徴は、それが単なる象牙の塔に留まらず、常に社会に積極的に働きかけようとすることにあります。

企画展開催に際しての広報活動、美術講演会、ギャラリートークや美術セミナー、遠隔地の人々を対象にした移動美術館、美術館ニュース『HILL WIND』の発行などを行っています。

美術館活動の成果が最も目につくかたちをとるのは、作品の展示においてです。とりわけ美術館の真価が問われるのは、その常設展示によってです。本館の常設展示は年間4期に分けて、日本近代絵画を中心に、現代に至る美術の流れを系統的に捉えることを目指しています。また企画展示室では独自のテーマによる自主企画展を催すとともに、より広い観点での共同企画展を行っています。