四季折々花の絵画、山種美術館

日本では古来より、四季折々を彩る花を愛で、詩歌に詠い、絵画や工芸の意匠に表現してきました。近代に入ってからは、従来の洗練された花鳥画や草花図の伝統を引き継ぎながらも、近代的な感覚を取り入れた新たな花の表現が模索され、個性豊かな作品が生み出されています。

山種美術館は、桜の名所・千鳥ヶ淵にほど近い場所にありました。毎年春には桜をテーマとした展覧会を企画し、ご好評をいただいてきました。「花」は特に人気のあるテーマの一つであり、移転後も桜や花の絵をご覧になりたいという声が多くよせられてきました。この声にお応えし、移転後初となる花をテーマとした企画として、四季折々の花を描いた絵画で会場を埋め尽くす「百花繚乱」展を開催します。

絢爛と咲き誇り、いさぎよく散る桜の花は、古来より人々の心をとらえ、日本を象徴する花として愛されてきました。古くは平安時代の貴族の調度や器物にその姿が登場し、やがて鎌倉期の鎧や甲冑に見られる桜文様が武士の精神を表現するものとして好まれるようになります。その後、室町期に多様化した桜のモチーフは、桃山時代以降の屏風や調度の意匠に取り入れられ、元禄期にはお花見に興じる人々の姿とともに表現されるようになります。こうして日本人の生活や歴史と密接にかかわってきた桜は、明治以降も愛され続け、現代にいたるまでさらに多くの画家たちを魅了しています。

日本一の高さを誇る富士山は、日本を鎮守する霊山として古来より信仰の対象でした。雄大な独立峰としての姿と周辺の景観の美しさは、万葉の時代から数多くの詩歌に詠われ、多くの芸術作品を生み出してまいりました。日本人の心のよりどころともいえる霊峰富士に加え、武士道や大和心にも通じる美意識と深く関わって、古くから日本人に愛され親しまれてきた桜、そして「花の王」牡丹をはじめとする春の花が展示に彩りを添えます。

本展覧会では、近代日本画を中心に、酒井抱一をはじめとする江戸後期の画家から、上村松篁ら平成になってからも活躍した画家まで、約50点の作品を展示します。独特の淡く柔らかな色彩で桜を描く奥村土牛の《醍醐》、裏彩色を駆使し幽玄な世界を表出する福田平八郎の《牡丹》、琳派特有のたらし込みと装飾性が際立つ酒井抱一の《菊小禽図》、一枝の美しい瞬間を色と形に凝縮させた速水御舟の《椿ノ花》など、春夏秋冬それぞれの季節を彩る花々の競演とともに、時代を築いてきた画家たちの花に寄せるまなざし、創意工夫に満ちた表現の世界を存分に味わっていただきたいと考えています。

山種美術館の「美術を通じて社会、特に文化のために貢献したい」という理念のもと、1966(昭和41)年に、全国初の日本画専門の美術館として開館いたしました。以来、今日にいたるまで約半世紀にわたり、近代・現代日本画を中心とした収集・研究・公開・普及につとめてまいりました。

日本画は、岩絵具や和紙など自然の素材を用いる芸術です。その主題や表現においても自然の美しさや季節感などが大切にされ、自然とともに生きる中で培われてきた日本の伝統的な美意識が反映されています。山種美術館は、日本独特の自然や風土の中で、長いときをかけて磨かれてきた日本画の魅力を、年齢、性別、国籍を問わず、一人でも多くの方にお伝えしていきたいと考えています。また、日本画を未来に引き継いでいくことができるよう、様々な活動を展開してまいりたいと存じます。

21世紀に入り、グローバル化や情報化、技術革新が急激に進むなど、私たちを取り巻く社会や環境はめまぐるしく変化しています。そうした中、人々の心を豊かにする文化や芸術の重要性が見直されるとともに、その一端を担う美術館の果たすべき役割があらためて問われています。当館は、展覧会や教育普及をはじめとするあらゆる活動を通じて、日本画と日本文化の素晴らしさを伝え、人々に感動や発見、喜びや安らぎをもたらすことのできる美術館を目指してまいります。

山種美術館の「美術を通じて社会、特に文化のため大いに貢献したい」という理念を核として、受け継がれてきた精神や共通の価値観を明文化し、山種美術館の基本理念を制定いたしました。また、日本画の素晴らしさを幅広く発信していきたいと考え、従来のロゴに新たなシンボルマーク(デザイン:佐藤卓)を加えました。さらに、かつて実施していた「山種美術館賞」を、新しい時代にふさわしいかたちで再開させた「Seed 山種美術館 日本画アワード 2016」を実施いたしました。本アワードは、今後も継続的に開催する予定で、日本画を未来に引き継ぎ、世界に伝えていく一助になればと存じます。

「美術を愛好される方も、またこれまであまり縁のなかった方にも広く日本画の良さを味わって頂けたらというのが、実は私の願いなのであります」という言葉を残しました。当館では、この創立者の思いを継承するとともに、21世紀における日本画の普及を目指し、展覧会や教育普及活動から、インターネットを活用した情報発信まで、さまざまな取り組みを行っております。

文化や芸術は人々の心を豊かにすることができます。21世紀に入り、グローバル化が進む中、当館では、日本固有の財産である日本画の魅力を国内外に広く発信し、国際社会において少しでも意義のある活動を続けたいと考えております。これからも、親しみやすいテーマによる展覧会から地道な研究まで、多彩な活動を通じて、日本文化・学術の振興と発展につとめてまいりたいと存じます。