日本の地下鉄

日本の地下鉄は、日本における地下鉄について解説する。

主に地下を走る鉄道路線(地上の高低差を避けるためにトンネルを用いた各種路線を除く) – 広義。防災や設備面での定義。
主に大都市内の地下を通り、「地下鉄」と称して地方公共団体等が事業を行っている鉄道路線網(狭義。日本で一般利用者が認識している「地下鉄」の定義)
上記 2. の路線に、「交通網整備計画」の策定で盛り込まれた地下鉄でない鉄道路線を主体とする鉄道網を持つ鉄道事業者の地下路線(東急田園都市線渋谷 – 二子玉川間(旧新玉川線)、京急本線泉岳寺 – 品川間、西武有楽町線小竹向原 – 練馬間など)を加えたもの(行政上での地下鉄の定義、都市計画法に定める都市施設の一つである「都市高速鉄道」として)
以上のような定義があるが、ここでは、主に 2. の一般利用者が認識している「地下鉄」の定義に基づいて記述する。以下においては断りがない限り、日本地下鉄協会に加盟し、同協会が「日本の地下鉄」として認識している事業者 並びにその路線について記す。

概要
貨物線では、1915年(大正4年)に内閣鉄道院(現:JR)東京駅と東京中央郵便局(現:JPタワー)との間、約0.2km(地下駅:2駅)に開通した逓信省(現:総務省/JP/NTT)の郵便物搬送用地下軌道(正式名称不明)が最初である。

旅客線では、1925年(大正14年)に開通した宮城電気鉄道(現:JR仙石線)の仙台駅と東七番丁駅との間、約0.4 km(地下駅:1駅)に始まる。

1927年(昭和2年)に開通した東京地下鉄道(現:東京メトロ銀座線)の浅草駅 – 上野駅間(約2.2 km)は、4つの地下駅を擁した。これを日本地下鉄協会は「日本初の “本格的” な地下鉄」とし、東京地下鉄(東京メトロ)は系列の地下鉄博物館と共に「東洋初の地下鉄」とし、東京所在のマスメディアは「日本初の地下鉄」として、上記2者はあたかも存在していないかのような説明をしてきた。2017年(平成29年)3月10日、文部科学省文化庁への答申で「東京地下鉄道1001号電車」を重要文化財とすべきとされ、その説明文において東京地下鉄道・浅草 – 上野間は(東京メトロの主張通り)「東洋初の地下鉄開業」とされた。同年9月15日、答申通りに官報にて指定が公表された。

日本の地下鉄は現在、東京都のほか、大阪市・名古屋市・横浜市・札幌市・京都市・神戸市・福岡市・仙台市などにあり、通勤・通学など日常用から観光用途まで広く一般に利用されている。三大都市圏においてはサービス面では地上線と大きく変わらないが、地下を通ることで用地収容が困難な地区まで入り込んだ路線網を築いている。特に東京都区部と大阪市、名古屋市においては、都心の主要な移動手段として地上の交通(私鉄・在来線・自動車・バス・タクシーほか)を凌駕するほどの地位にある。一方、地方圏の札幌・福岡・仙台(地方中枢都市)においては、地上の在来線を超えるほどの運行頻度によって都市内交通の中心的存在となっている。

降水量が多く、大都市が沖積平野を中心に発達する日本(参照)において地下鉄を建設するには、地下水が豊富な軟弱地盤を掘り進み、多発する地震にも耐え得る強度を持った地下トンネルや地下駅を建設する必要がある。そのため、高度な土木技術が必要であり、かつ、建設費もかなりの高額になってしまい、経営は非常に厳しい。

構造

集電方式
世界的に地下鉄では主流とされる第三軌条方式(サードレール方式)は、日本では札幌市営地下鉄の南北線、東京メトロの銀座線と丸ノ内線、横浜市営地下鉄のブルーライン、名古屋市営地下鉄の東山線・名城線・名港線、Osaka Metroの御堂筋線・谷町線・四つ橋線・中央線・千日前線で採用されており、これ以外の路線は剛体架線またはカテナリ吊架式による架線集電方式を採用している。

これは日本では郊外路線との相互直通運転を前提として建設される路線が多いため、既存路線と規格を合わせる必要があることによる。逆に大阪市営地下鉄の御堂筋線と相互直通をする北大阪急行電鉄、中央線と相互直通する近鉄けいはんな線は新規に第三軌条方式で建設された郊外路線である。

地下鉄駅
日本の地下鉄駅の災害などに備えての対策は、世界的に見ても非常に盛んである。その背景には交通営団時代の地下鉄サリン事件が関係している。

東京では墨田区・江東区・江戸川区などの海抜がマイナスのいわゆるゼロメートル地帯を走行する、東京メトロ東西線・都営地下鉄新宿線などに、防水扉が設けられている。

東海豪雨のときは名古屋市営地下鉄名城線の平安通駅が冠水したため、名城線市役所駅 – 砂田橋駅間(当時は砂田橋行)で代行バス運転を行った。そのほかにも、名古屋市営地下鉄鶴舞線の一部駅や名古屋市営地下鉄名港線名古屋港駅では防水扉を設置している。

また、著しく利用客の多い駅では、島式のホームを方向別に千鳥状に分けることによって、利用者の混雑を抑えるところや(例:名古屋市営地下鉄東山線名古屋駅)、新規にホームを新設して方面別に分離する(例:東京メトロ銀座線新橋駅)といった対策がとられている。

車両
車両は古い路線(特に他社との乗り入れを前提に作られた路線)では、地上の鉄道と同様の大型の車両を用いるのが一般的であったが、2000年代以降ではミニ地下鉄が用いられることが増えた。

ミニ地下鉄
ミニ地下鉄とは、一般的な地下鉄のように大量人員輸送を担うシステムと、モノレールやバスのような少量人員輸送を担うシステムの中間部分を担うために研究・開発された中量軌道輸送システムの一種であり、日本独自の地下鉄システムである。

小断面トンネル・小型車体を採用する地下鉄のうち、リニアモーターカーを用いる場合は「リニアメトロ」「リニア地下鉄」などと呼ばれる。日本ではこの場合、浮上せずに、リニアモーターの動力を車輪に伝えてレール上を走行する「鉄輪式リニアモーターカー」となっている。地下鉄の路線は大きく曲がる箇所が多く、また、100km/h以下で走行するため、リニアモーターを浮上と駆動の双方に用いる磁気浮上式鉄道(リニア中央新幹線ほか)のような、線形が直線的で時速数百キロメートルの高速走行を目的とする路線とは建設思想が異なる。

一般の地下鉄や鉄道はその重い車両を駆動するためのモーターも相当の重量があるが、「リニア地下鉄」は車両に重いモーターを搭載しなくてよくなったことで車重が軽くなり、結果、高い性能を得られる。すなわち、登坂能力が 80‰ まで可能とされる。実際の路線で許可される最急勾配は 60‰ までとは言え、一般の地下鉄や鉄道で計画される 35‰ を大きく上回ることが出来る。例えば、最新の仙台市地下鉄東西線では、八木山動物公園駅が日本一高い場所にある地下鉄駅(標高136.4m)となっており、途中の青葉山を上るトンネル区間には最急勾配57‰がある。また、約50m (R50) の急曲線でも走行可能とされる。実際の路線では最小曲線半径が概ね100m (R100) となっているとは言え、一般の地下鉄や鉄道で許可される 160m (R160) と比べて急曲線にも対応できるという特徴も持つ。

日本では1962年(昭和37年)より、鉄道にリニアモーターを使用する研究が始まった。当時、全国に国鉄操車場(ヤード)が約50箇所あったが、ヤードの仕分線において人力で貨車を移動させるライダー要員の省力化を目指し、1967年(昭和42年)には自動的に定位置に移動するリニアモーター駆動方式の仕分線内貨車加減速装置「L2形貨車突放装置」が開発され、さらに「L4形貨車加減速装置」を搭載した貨車「L4カー」が各地のヤードで活躍した。

2度のオイルショックを経て日本の地下鉄建設費は、狂乱物価とよばれたインフレーションもあって50-80億円/km(1975年頃)から約200億円/km(1980年頃)に上昇し、さらに300-400億円/km(1980年代末)になろうとしていたため費用対効果が悪化した。しかし、ラッシュ時に定員を超えて満員電車に乗車させる押し屋が登場するほど都市交通需要は増加しており、またモータリゼーションによる交通戦争や大気汚染など都市問題解決に地下鉄は必要な交通手段だった。そのため1976年(昭和51年)に小断面地下鉄にリニアモーター搭載電車を走行させる構想が提言され、1980年代に実用化に向けた本格的な取り組みがなされ、1990年(平成2年)開業の大阪市交通局鶴見緑地線(現・長堀鶴見緑地線)で初めて実用化された。

従来の地下鉄に比べてリニア地下鉄は消費電力がやや大きくなる。原因としてリニア誘導モータ特有の損失と、一次側とリアクションプレートとの隙間が多いことが挙げられる。単位重量あたり単位距離あたりの消費電力で比較すると、惰性で走行できる距離(惰行区間)が長いほど消費電力が少なくなるため、駅間距離が長く曲線が緩やかな普通鉄道と比べて従来型地下鉄およびリニア地下鉄は多くなるが、駅間距離が短く、信号停止が多く、急な曲線が多く、さまざまな機材を載せなくてはいけない路面電車と比べると少なくなっている。

日本の地下鉄の現況
日本の法規上では、Osaka Metroを除き鉄道事業法に基づいている。

Osaka Metroは中央線コスモスクエア駅 – 大阪港駅間(当初大阪港トランスポートシステム(OTS)の第一種鉄道事業区間であったテクノポート線を、2005年7月1日にOTSが第三種鉄道事業者、交通局が第二種鉄道事業者となって中央線に編入した区間)を除いて軌道法に基づき、法律上は軌道である。
東京の東京メトロ東西線・都営地下鉄三田線、大阪のOsaka Metro御堂筋線・中央線、神戸の神戸市営地下鉄西神・山手線、横浜のブルーライン、グリーンラインなどは、都心から外れた郊外の区間を中心にして広範囲に地上や掘割、高架を走っている場合もある。世界的に見ても、一部路線が地上や高架を走る路線は存在する(河川を跨ぐ前後などにもみられる)。中には高速道路と一体構造で建設されている路線もある。

東京メトロ丸ノ内線は地形の都合もあり、都心でも一部に地上区間が存在する(特に四ツ谷駅では地下鉄がJR中央線の上を走る光景がみられる)。なお、東京メトロ銀座線も同様の理由から、渋谷駅が他の鉄道より高い位置に駅を構える形となっている。
大阪市営地下鉄中央線は開業当初全線が高架で、地下区間が全く存在しなかった。
名古屋市営地下鉄東山線の上社駅 – 藤が丘駅間は建設当時、地下方式にする必要がなく高架になっており、東名高速の上を跨いでいる。
一方、地下鉄でない京王新線は都営地下鉄新宿線と、西武有楽町線は東京メトロ有楽町線・副都心線と連絡している。

近鉄難波線やJR東西線、京阪中之島線は地下鉄と直通しないが、それ自体がほぼすべて地下を走っているというような場合もある。

日本の大手私鉄のうち、地下線や地下駅、地下鉄などに直通運転するための車両を全く持たないのは南海電気鉄道と西日本鉄道の2社のみである。

相模鉄道は地下駅を持つが、地下鉄には直通しない(現状については神奈川東部方面線の記事も参照せよ)。
東武鉄道には自社管理の地下駅がない(押上駅が東武鉄道の唯一の地下駅だが、管理は東京地下鉄が行っている)。
日本では、地下鉄と地下区間を持つ普通の鉄道との区別が曖昧になっており、狭義では自治体(地方公営企業である交通局)が直接経営している公営交通以外の路線は総て後者に分類される場合がある(乗換案内ジョルダンなど)。すなわち、上述の埼玉高速鉄道や横浜高速鉄道、かつての神戸高速鉄道、さらには日本地下鉄協会に加盟していない東京臨海高速鉄道など、路線の大部分が地下区間である路線でも地下鉄とみなされない場合があり、路線検索サイトの対応(私鉄路線か地下鉄路線か)も統一した基準がないのが現状である。一方、東京メトロは元々公営交通(帝都高速度交通営団)であり、各種案内でも「地下鉄○○線」と表記されるなど、自他共に地下鉄として取り扱われることが多く、大手私鉄では例外的に前者に分類されることが多い。

一般的には地下鉄として認められないが都市部に長い地下区間を持つ鉄道路線を紹介する(既出のものを除く)。
JR東日本仙石線は、仙台市都心部のあおば通駅 – 苦竹駅間は途中に4つの地下駅を含む地下区間を持つ(仙台トンネル参照)。
JR東日本総武本線・東海道本線(実質的には横須賀線)の錦糸町駅 – 品川駅間は、途中に4つの地下駅を含む地下区間を持つ(総武トンネル・東京トンネル)。
首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス線は、秋葉原駅 – 北千住駅間は途中に4つの地下駅を含む地下区間を持つ(秋葉原駅からさらに東京駅に向けて、地下を通る延伸計画もある)。
長野電鉄長野線の長野駅 – 善光寺下駅間は、途中に2つの地下駅を含む地下区間を持つ(駅案内では「地下鉄区間」と表記されている)。
北陸鉄道浅野川線の北鉄金沢駅 – 七ツ屋駅間は、地下化されている(北陸鉄道石川線の野町駅まで地下区間を延ばす計画があったが、現在は凍結されている)。
広島高速交通広島新交通1号線の地下鉄扱い区間は前述のように本通駅-県庁前駅間0.3Kmであるが、その先の新白島駅手前まで連続して地下を走っており、城北駅は地下駅、新白島駅は半地下駅となっている。

東京都心
東京都心は山手線内一帯に拠点が散在しているが、地下鉄より早く完成した中央線など、JR線が速達性を持っていて、地下鉄やバスはその補完的な存在となっている[要出典]。

銀座線のバイパス路線である半蔵門線は駅間距離を広げて速達性を持たせている。また、都営新宿線の急行、都営浅草線のエアポート快特、副都心線の急行・通勤急行は都心の駅を通過する。東西線の快速・通勤快速は都心では各駅に停車する。
皇居の下を通しても途中駅の造りようがなく、皇居を迂回して周りに広がっている各拠点を通った方が、多くの人が乗って収益が見込める(実際、大きな拠点を外して敷設された路線ほど赤字の傾向がある)。また、地下鉄は基本的に広い道路に沿って造られるが、皇居には広い道路はない。その上、皇居は天皇の住まいであるという観点から、警備上の問題なども有り、皇居の地下に地下鉄を通すことを今まで認められたことは無い。結果として、地下鉄はすべて皇居の下を避けるように周囲に迂回して建設されている(ただし、江戸城の堀の下を通る路線は複数存在する)。

大阪都心
大阪では、大阪城跡が現在の業務中心地からややはずれた一角にあることと、地下鉄各路線が網の目にむらがあるペーターゼン式であるため、東京のような問題はほとんど無い。各路線は大阪環状線(同記事も参照)の内側では、ほぼ南北の筋と東西の通りに沿って建設され、かつて存在した市営モンロー主義の名残もあり、市内交通の主力になっている。ただし、私鉄やJRとの相互乗り入れが活発でなく、目的地に到着するまでの乗り換え回数が必然的に多くなるという問題がある。

御堂筋線梅田駅の乗降客数は、日本の地下鉄で単一路線の駅としては第1位である(2007年11月13日の梅田駅での乗降客数は460,859人となっている)。

名古屋都心
名古屋では大阪同様、都心部においては碁盤の目状に張り巡らされた大通りの地下に沿って建設された。路線同士の交差部では必ず駅が設けられているのが特徴である。

名古屋市営地下鉄では6路線のうち初期に開業した3路線(東山線・名城線・名港線)が第三軌条、比較的新しい3路線(鶴舞線・桜通線・上飯田線)が 名古屋鉄道等への直通運転を考慮した架空電車線方式を採用しており、うち2路線(鶴舞線・上飯田線)は名古屋鉄道と直通運転を行っている。

福岡都心
福岡は、廃止された西鉄福岡市内線や筑肥線(博多~姪浜)を引き継いで建設されている事から、それなりに重要な路線となっている。

他路線の延長としての地下鉄
JR・私鉄と相互直通または接続している地下鉄路線の中には、既設の地上路線の延長や廃止区間の代替として事実上一体的に作られたものもある。路線としては事実上一体化していても、接続先の会社線で運賃体系が変わり、接続路線・地下鉄にまたがっての利用数者は伸び悩んでいる事例も多い。乗継割引を適用して対処している路線もあるが、根本的な解決には至っていない。

これに類する事例として、神戸高速鉄道の例がある。同社は山陽電鉄本線の神戸都心への延長、阪急神戸本線・阪神本線の山陽電鉄本線との接続ならびに神戸電鉄有馬線との連絡のために設立された企業で、自社では運行を一切行わず、地下路線と地下駅施設の保有・管理に特化した運営を行っていた。同社は日本地下鉄協会にも加盟していたが、鉄道事業法の改正にあわせて線路の保有(第三種鉄道事業者)に専念することとなり(阪急・阪神・神鉄が神戸高速線として各駅を管理)、日本地下鉄協会からも脱退した。

この逆で、地下鉄の延長として作られた北大阪急行南北線・名鉄豊田線・北神急行北神線・近鉄けいはんな線・埼玉高速鉄道線・東葉高速鉄道線などの路線もあるが、運賃体系については同じ問題を抱えている。さらに新線区間では加算運賃や、既設線より割高な運賃体系が適用されていることもある。

日本の地下鉄における優等列車
基本的に、日本の地下鉄では次の理由などから、各駅停車のみの運転を行っている路線や、東京メトロ半蔵門線など他社線内では優等種別として運転していても地下鉄線内では各駅に止まる場合が多い。

道路の下に沿っているうえ、既存の地下鉄や地下街の間を網の目を縫うように掘られるため、結果多くの区間でアップダウンやカーブが激しくなり、高速運転に不向き。
地下鉄は建設費が莫大でさらに近隣の地下の使用状況を考えると、優等列車の待避設備などを設けるだけの予算や場所の捻出が困難。
地下鉄は普通、都市の都心部に建設されるためどの駅も利用者が多く、こまめに停車した方が多くの収益が見込める。また、多くの駅で乗り換え路線が何線かあり旅客の流動性が激しいことから、優等種別の停車駅設定が困難かつ優等種別の存在意義が薄い。
地下鉄での優等列車導入は、東京メトロ東西線の快速列車が始まりである。ただし地下区間での通過運転は南砂町駅だけであり、緩急運転を行う大半の区間は地上区間である。

日本の地下鉄に於いて、ニューヨーク市地下鉄のように緩急分離運転の可能な複々線で敷設された路線は無く、緩急接続・待避が可能な地下駅も限られているため、優等列車の設定のある路線でも地下区間での追い越しを行わない路線も多い。地下区間で待避を行うのは、東急新玉川線(現・田園都市線)急行の桜新町駅での事例が最初(ただし上記定義の (2) には相当しない区間である)。一般に地下鉄と呼ばれる区間では都営地下鉄新宿線瑞江駅、東京メトロ副都心線東新宿駅も同様の構造を持つ。

このほか特殊な事例として、東京メトロ千代田線・有楽町線から小田急小田原線経由箱根登山鉄道線直通による、狭義の地下鉄では初となる有料の特急列車の運行(小田急ロマンスカー#地下鉄への乗り入れを参照)、東京メトロ日比谷線から東急東横線経由みなとみらい線直通による「みなとみらい号」(多客期のみ・運行終了)、Osaka Metro堺筋線から阪急京都本線経由嵐山線直通による臨時特急(阪急京都本線#嵐山線直通臨時列車を参照)の事例がある。いずれも、地下鉄区間から観光地への利便性を図ったものであり、他路線における緩急分離運転とは目的が異なる。

日本の地下鉄の経営状況
地下鉄は建設費が高額なため、新しく建設された路線は建設費の償却負担が重く、赤字経営となっているのが普通である。それに対して、都市経営の観点から一等地を通る優良路線から建設された側面もあり、古い路線ほど利用客の多いルートを通っている上、インフレの進む前のコストが安い時期に建設されて償却費負担が軽いため、銀座線、丸ノ内線、御堂筋線、東山線などの歴史ある路線はすべて黒字経営である。そのため、こうした古くから営業している償却負担が少なくて利用者の多い優良路線を多数抱え、新線建設が比較的少ない東京地下鉄は黒字経営となっている。

日本の公営地下鉄は、地方自治体経営における交通部門の施策の一つとして、鉄道単体の収支以外に地下鉄建設による環境負荷軽減効果、渋滞緩和効果、地価上昇効果、税の増収効果、住民の便益向上効果などを、総合的に判断して経営されている。

民鉄やJRの経営状況を鉄道事業以外の小売事業やカード事業など母体会社の連結対象となる事業を含めた決算資料で判断しなければ、適正な経営状況を把握できないのと同様、地方自治体の地下鉄事業による総合的な収支の把握は、その連結対象となる経済効果の経済価値を含めて判断しなければならない。

しかし、現状では、地下鉄事業によって波及して発生している経済効果を把握していく適切かつ統一した会計基準がないばかりか、地下鉄事業本体の会計に至っても適切かつ統一した会計基準がない状況である。

例を挙げれば、減価償却費を各自治体が、どのように計上していくかによって決算の数字が大きくブレる可能性がある。また札幌市営地下鉄や福岡市地下鉄のように赤字分を市一般会計から補填するかたちで総額のうえで黒字計上としている場合もある。