北海道大学総合博物館、札幌、日本

北海道大学総合博物館は、国立大学法人北海道大学が設置している博物館である。北海道大学には、130年以上前の札幌農学校時代から収集・保存・研究されてきた400万点にものぼる標本/資料が蓄積されています。その中には、新種の発見・認定の基礎となる貴重なタイプ標本が1万点以上含まれています。

北海道大学における博物館は、札幌農学校時代の1884年(明治17年)に、それまで開拓使が管理・運営していた植物園博物館を譲り受けたことにより発する。なお植物園博物館は現在、北海道大学北方生物圏フィールド科学センターの管轄下に置かれており、総合博物館とは別組織となっている。

1999年春に開館した北海道大学総合博物館は、こうした北海道大学の多様な研究の伝統を今に伝えるとともに、最先端の研究をさまざまな実物資料や映像で展示・紹介しています。博物館にある「事」たちは、「言」つまり情報とセットになることで、歴史や未来を語ってくれます。

総合博物館は、札幌農学校の開校以来140年に渡る研究成果として生み出された学術標本を良好な状態で集約・管理し、学内外に情報を発信することを目的としている。

沿革
北海道大学の前身、札幌農学校は1876年(明治9年)に開校した。その翌年にはクラーク博士が『札幌農学校第1年報』において、将来の自然史博物館の基礎が着々と出来つつあることを述べている。博士が去って7年後の1884年(明治17年)に札幌農学校は開拓使より植物園とともに園内の博物館を譲り受け、ここに附属博物館が実現した。

札幌農学校開校以来130年の研究成果として現在400万点を越す学術標本が学内に所蔵され、その中には約1万3千点のタイプ標本が含まれている。

これら貴重な学術標本を良好な状態で集約管理し学内外に情報を発信するために、1966年(昭和41年)から総合博物館設置が検討されてきた。理学部本館建物を総合博物館として再利用し、延べ約9,000m2の総合博物館にする構想がまとまり、1999年(平成11年度)文部省より設置が認められた。2001年(平成13年)には、本学創基125周年事業の一環として、第1期工事分3,000m2の改修が行われて公開展示が開始され、現在も改修を進めている。

北海道大学の教育・研究の成果を広く一般に公開する場として、また、貴重な学術標本を整理・保管し発信する場として、総合博物館の役割はますます大きなものとなっている。

なお、2007年(平成19年)には、水産科学研究院の水産資料館が、水産科学館として総合博物館の分館となった。

建物
現在、北海道大学総合博物館として使用されている旧理学部本館の建物は、外壁が茶褐色のスクラッチタイルおよびテラコッタ張りのモダーン・ゴシック風の建物で、昭和4年(1929年)11月に完成して北海道大学に昭和新時代の到来を告げる新鮮な景観を呈した。北海道大学構内にある鉄筋コンクリートの本格的建築としては最も古い建物であり、当初、理学部設置計画に基づき建設された。翌昭和5年(1930年)4月には念願の理学部が開学し、平成17年4月で理学部創設七十五周年を迎えた。

本建物の正面玄関から入り中央階段をらせん状に登り切ると、三階まで吹き抜けの白天井のドームが目に入る。この場所は「アインシュタイン・ドーム」の愛称で親しまれている。この吹き抜けを取り囲むように、三階の天井近くの白壁にはめ込まれたかなり大きな陶板製のレリーフ(内径87センチ、褐色の縁が幅11センチ)が目につく。

東南西北の四方の壁それぞれに、「果物(くだもの)」、「向日葵(ひまわり)」、「蝙蝠(こうもり)」、「梟(ふくろう)」があしらわれている。よく見ると、「果物」の下方には[MATIN]、「向日葵」には[MIDI]、「蝙蝠」には[SOIR]、「梟」には[NUIT]と刻まれており、仏語でそれぞれ「朝」、「昼」、「夕」、「夜」を表している。「梟」以外のレリーフには、多分製作者と思われるフランスの陶芸家のサイン(読み取り困難)と1929年の刻印がある。四つのレリーフは、この建物で行われる研究・教育には一日中、昼も夜も無い事を表わし、創立当時の理学部構成員の心意気と努力、さらには理想を示している。理学部創立当時の各研究者は息盛んで、世界の理学研究のメッカにしたいという理想に燃えていたと言われている。

このレリーフは、その当時の北海道大学本部営繕課長であった萩原惇正技師の発案であったとされているが、「アインシュタイン・ドーム」の名称を何時・誰がつけたのか不明であり、特にアインシュタイン(1921年ノーベル物理学賞受賞)と直接関係があるわけではない。東京三鷹の東京天文台(現在の国立天文台三鷹キャンパス)に、後に「三鷹のアインシュタイン塔」と呼ばれる「太陽分写真儀室」が、本学理学部建設と同じ1930年に完成している。1935年に北海道帝国大学理学部教授となった堀健夫は、ベルリン郊外ポツダムにあるアインシュタインの一般性相対理論を検証するために作られた「アインシュタイン塔(1924年建設)」を訪ねている。その吹き抜け構造と上部のドーム状天井は「アインシュタイン・ドーム」と類似し、最上部から入った外の光が一階まで照らす設計は、塔望遠鏡を連想させる。

堀教授が北海道大学に着任した頃は、日本の天文学・物理学界で「アインシュタイン塔」が話題に上っていたと思われる。自らの専門分野・分光学との関係で「アインシュタイン塔」に強い関心を持ち、さらに実際にそれを見たこともある堀教授が率先して、積極的に「アインシュタイン・ドーム」と呼んだ可能性が高いと考えられる。

所蔵コレクション
北海道大学には約400万点の貴重な学術標本があり、総合博物館は約1万3千点のタイプ(模式)標本を含む、約300万点の学術標本を収蔵しています。

陸上植物(SAPS)
ルーツは、明治24年(1891年)の札幌農学校植物学教室に隣接していた「植物標品室」であった。明治36年(1903年)に札幌農学校が現キャンパスに移転するのとともに新たに、動植物学講堂南側にレンガ造り2階建てのさく葉庫(標本庫)が開館した。この標本庫を宮部博士は「わが子」のように慈しみ、引き継いだ舘脇操博士も充実に努められた。しかしながらこの建物は昭和34年(1959年)に取り壊され、次に農学部本館のS172号室が標本庫となった。

1999年に総合博物館が新設されたのを受けて、この農学部保管の陸上植物標本は総合博物館に移設された。この間に植物園から高橋標本(約2.5万点)が移管され、さらに原コレクション(約8,000点)・理学部維管束植物標本(約2.5万点)が追加された。

現在の整理標本は約25万点、年間平均50~100人の研究者により利用され、年間1,000~3,000枚のペースで整理標本が増加している。

菌類(SAPA)
1876年創立(札幌農学校創設と同年)、全体で177,000点の標本があり、宮部金吾(1860-1951)、伊藤誠哉(1883-1962)、村山大記らの重要なコレクションを含む。

北海道大学における菌学の基礎は、札幌農学校2期生の宮部金吾によって固められ、伊藤誠哉が引き継いだ。伊藤は『日本菌類誌』の刊行に心血を注ぎ、第1巻 (1935)、第2巻第1~5号(1935-1959)、第3巻第1号(1964)を出版した。その後、第3巻第2号が1988年に大谷吉雄により出版されている。なお、伊藤は1945年から5年間北海道大学の総長も務めている。

海藻(SAP)
SAPは理学部創設の翌1931年に理学部1階(現総合博物館の北海道大学歴史展示が行なわれている展示室の一部)に設立された(床面積144m2)。収集標本の増加とともに、一部を中二階構造とした。1999年に総合博物館の改修に伴い移転した時点では、木製標本棚120個に多数の標本を収納していたが、適当な建物が無く、特に貴重であるタイプ標本と岡村金太郎コレクションを総合博物館に収蔵した以外は、プレハブや旧廃液処理センター倉庫等に分散して仮収蔵され、標本の劣化が危惧された。この状態が数年間続いた後、2004年に農学部所蔵植物標本を総合博物館に移転した際、菌類藻類標本庫(SAPA)のうちの全ての海藻標本(宮部金吾のコンブ類タイプ標本等を含む)とともに、SAPのさく葉標本は総合博物館3階未改修部分の一部(床面積116m2)にようやく仮収蔵され、理学研究科と総合博物館の共同管理となり、現在に至っている。(なお、いまだに液浸標本は箱詰めのまま旧看護婦宿舎に仮置きの状態が続いており、関係者は当局の理解を切望している。)

当標本庫は、理学部旧植物分類学講座の関係者が研究対象にしてきた海藻標本を主に所蔵している。日本列島のみならず、北はアリューシャン列島、南はミクロネシア、マレーシアに至る北太平洋西岸に生育する種の他に、インド洋や大西洋等の外国産標本も含む12万点を超えるさく葉標本ならびに約2万点の液浸標本が所蔵されている。当標本庫はSAPとして国際的に登録された略号を持ち(公的な世界の植物標本庫インデックスの最新版 Index Herbariorum, Part I : The Herbaria of the World, Eigth Edition, 1990, p.203)、下記の海藻標本を所蔵している。

SAPは日本の研究者によって発表された日本固有海藻種のほとんどすべてのタイプ標本を含んでいることと、海藻標本の保有総数において世界的な標本庫である。

昆虫(SEHU)
明治29年、札幌農学校に日本最初の昆虫学教室が松村松年(1872-1960)によって開設された。以来、歴代の教官・学生により日本の昆虫学・昆虫分類学の基となった標本類が蓄積されてきた。現在、総数約200万点に及ぶ。特に新種・新亜種・新型記載に用いられた標本が10,000点以上も含まれており、学名決定の基準となるこれら「タイプ標本」調査のため、現在も世界各国からの研究者の来訪が絶えない。また内外の主要な昆虫分類学研究機関への標本貸し出しも頻繁であり、アジア地区の昆虫標本コレクションの拠点となっている。

近年では、極東アジア(千島列島国際調査)・東南アジア(インドネシア・マレーシア・フィリピン・台湾との共同調査)・南アジア(インド・ネパール生物調査)において採集された膨大な標本群が新たに収蔵されている。また100年以上にわたる標本管理・保存の実績から、重要分類標本の収蔵機関として評価が高く、国内の貴重な学術標本の寄贈を受けることも多い(2000年には甲虫類標本「中根コレクション」約17万点受入れ)。これらコレクションの歴史と伝統、さらに近年の成長は、まさに日本の昆虫学・昆虫分類学そのものといえる。

魚類(HUMZ)
水産学部の設立以降、魚類標本は研究者個人の研究室で保管されていた。1958年に水産博物館(現在の水産科学館)が開館して以降、標本は博物館で保管されることとなった。1971年に尼岡邦夫名誉教授が北海道大学に赴任し、魚類標本コレクションは北海道大学水産学部動物学講座(HUMZ)所蔵として、保管されることとなった。2007年の水産科学館の総合博物館分館化に伴い、それらは北海道大学総合博物館所蔵となり、現在に至る。

魚類標本は約21万点保管されており、世界有数のコレクションとして知られている。東北・北海道近海、オホーツク海、ベーリング海などから採集された北方系魚類標本が多数収蔵されていることも本コレクションの特色である。タイプ標本は約1,050点にのぼる。DNA解析用組織片コレクションの充実もはかっており、約2,200点である。魚類標本はコンピュータによってデータベース化され、登録数は約176,000点である。

無脊椎動物(ICHUM)
1930年に理学部動物系統分類学講座が創設されて以来、研究・教育に利用されてきた、昆虫を除く無脊椎動物(多くは海産)の標本約9万点(含タイプ標本約2千点)から成る。

コレクションのアクロニムとして北海道大学理学部動物学教室を意味するZIHU(Zoological Institute, Hokkaido University)が1985年頃から使用されてきたが、広島大学旧動物学教室収蔵標本を意味するアクロニムが国際的なデータベース上で先取されていることが2014年に明らかとなった。この異物同名を解消するため、北海道大学総合博物館無脊椎動物コレクション(Invertebrate Collection of the Hokkaido University Museum)のアクロニムはICHUMと改称され現在に至っている。

旧動物学教室収蔵標本には内田亨博士による刺胞動物コレクション・ミズダニコレクション、奥田四朗博士の多毛類コレクション、米国調査船アルバトロス号による棘皮動物コレクションなど、約8万点が含まれている。

この他、1985年以降主に理学部動物系統分類学教室の教員・大学院生が研究に使用した証拠標本約5千点が追加されており、年間数十点ずつ増加している。

古生物
理学部開設の1930年以来、旧地鉱教室の教官・学生による野外調査の際に採集された標本がその主要であり、さらにそれ以前のコレクションもかなり含まれている。現在約2万点の標本が整理されており、その中に700点ほどのタイプ標本が含まれる。未整理の標本も多く、今後の整理によって、さらに登録標本が増えることが期待される。近年は、研究資料として恐竜類のレプリカ標本が増えてきている。

最も有名な標本として、ニッポノサウルスとデスモスチルスの原標本が挙げられる。両方とも、地鉱学科初代古生物学・層位学教授の長尾巧によって樺太から発掘され、研究されたものである。展示室には、レプリカをくみ上げた復元骨格があるが、実物標本は研究用として収蔵庫に保管されている。また、その後の教官によって多くの無脊椎動物が採集・研究され、それらも保管されている。樺太や北海道を始めとした北方圏の標本が数多く保管され、北方圏の古生物学の拠点ともいえる。

岩石・鉱物・鉱石標本
昭和5年理学部が設立され、その中に旧地質学鉱物学教室(現自然史科学専攻地球惑星システム科学分野)が開設されて以降、歴代の教官・学生により国内外より膨大な標本類が収集・蓄積されて来た。現在、その総数は約70,000点以上に達し、それぞれ岩石・鉱物・鉱石分野に分類整理され、総合博物館の地学系(岩石・鉱物・鉱石)標本庫に収蔵されている。現在もそれらの整理作業は継続されているが、整理済みの標本は随時標本棚に収蔵されると共に、データベース化が進められている。これらの収蔵標本類は国内外の関係研究者に広く公開され、実験研究用標本として提供されると共に、博物館における展示標本や教育用標本としても利活用されている。

収蔵されている岩石・鉱物・鉱石標本類の中には、様々な理由から現在ではほとんど入手不可能な千島列島や北朝鮮産の貴重な岩石・鉱物・鉱石標本類も含まれている。また、北海道ではライマン標本に次いで二番目に古いとされる札幌農学校卒業生等により収集された地質標本コレクション、国内の全ての産地から採集され全試料の化学分析データも揃った黒曜石標本、北海道産新鉱物(タイプ標本)や鉱石類も収蔵されている。また、工学部より寄贈された北海道内の既に閉山された各鉱山産の鉱石・変質母岩類も収蔵されている。また、最近国際的にも大きな話題となっているレアメタル・レアアース鉱石標本類も多数収蔵管理され、今後もこれらの標本類が研究・教育に大いに利活用されて行くと期待されている。

考古
古代、日本列島の北端・オホーツク海南西岸には、高度な海洋適応を遂げたオホーツク集団が暮らしていた。総合博物館では、この紀元後5-12世紀ころにサハリン南部から北海道北部-東部、千島列島南部の沿岸地帯に展開した海洋民のオホーツク文化の資料を主に収蔵・展示している。

これは、北海道大学文学部付属北方文化研究施設が継続的に調査・研究をおこなってきた礼文島香深井1遺跡と元地遺跡、稚内市オンコロマナイ遺跡、枝幸町目梨泊遺跡の資料を中心とする。

数百年にわたって形成された香深井1遺跡の遺物包含層の資料を分析し、この文化の時間的変化をとらえ、道北を中心とした編年の枠組みを提示。また遺物投棄の方向性と住居の位置関係などをもとに、集落の規模と構成を推定。さらに、食料残滓である動物骨の分析によって漁労・狩猟の季節性をとらえ、他の遺跡のデータとの比較から、香深井1遺跡など冬季中心の母村集落と夏期中心のキャンプの存在を推定。これらを組み合わせた領域をもつ地域集団、そして複数の地域集団からなる地方集団の把握、すなわち社会組織の復原に成功。また、クマを中心とした動物信仰と儀礼、大陸および日本列島内地との交易などによる交流などの解明が進んだ。

映像
総合博物館では、映像による情報発信を積極的に行うとともに,研究者が残した映像・音声資料のアーカイブ化を進めています。このページでは、総合博物館で企画・制作した映像作品、博物館で映像制作を学んだ学生の映像作品、展示映像のほか、アーカイブ映像・音声資料を公開しています。

組織
北海道大学総合博物館は図書館と並ぶ学部横断的な組織で、運営委員会とその下に置かれる専門委員会及び研究部,資料部並びに事務部により構成されます。

研究部
総合博物館の機能を有効に果たすため、学術標本及びそれらの学術情報に関する業務を行います。研究部は、3つの研究系から成り立っています。

資料基礎研究系
学術標本の基礎研究とともに、学際的な研究利用並びに教育利用に供するための研究を行います。

資料開発研究系
学術標本を教育・研究の素材として有効活用するための開発研究、並びに標本修復のための研究を行います。

博物館教育・メディア研究系
博物館と社会との関わり、大学博物館ならではの学生教育のあり方を研究しています。また、映像を活用した高等教育プログラムの開発や映像データのアーカイブズに取り組んでいます。この博物館教育学と博物館映像学の分野の研究は国内では歴史が浅く、本研究系はパイオニア的な存在として注目されています。

資料部
研究部の業務を支援するとともに、博物館に対し学術標本及びその研究成果の提供について各部局との連絡調整を行います(学部・大学院・研究所等教員が兼任)。現在のところ、人文・社会科学系、自然科学系、科学技術系、北方圏総合研究系などの分野に係わる専門家によって構成されています。

施設

カフェ
北海道大学総合博物館1階のミュージアムカフェぽらすは「身体にやさしい」がコンセプトです。できるかぎり肥料や農薬を使わない自然栽培野菜と北海道の素材にこだわって、すべて手作りしています。

総合博物館をご見学いただいたあとは、観覧の余韻にひたりながらカフェでゆっくり過ごしてみませんか?多くの皆様のご来店をお待ちしております。

ミュージアムショップ
北海道大学総合博物館1階のミュージアムショップでは、数ある貴重な標本の中でも注目を集めるデスモスティルスの骨格標本、札幌農学校初代教頭であるクラーク博士、モダンゴシック風の総合博物館の建物等をモチーフにデザインしたミュージアムショップオリジナル商品の他、当館で開催されている企画展関連商品、大学院の授業の一環として誕生した学生企画グッズ等を多数取り揃えております。第二の展示室のように、さまざまな商品を見て、選んで楽しんでいただくことができます。多くの皆様のご来店をお待ちしております。